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馬と弓と槍と

世界史コンテンツ(のようなもの)


~中世ヨーロッパ 3限目 馬と弓と槍と~ 
 












「おはようございます。前回に引き続き講師をさせて頂きます。みなさん準備はいいですか?」





「は~い。で、馬、弓ときて今度は何をやるつもり?」





「それらの兵科を統合した戦術について、説明するつもりです」





「シエルの姿が見えないようだが?」





「どうやら今回はフランスが出てこないことになりそうですので、お呼びしませんでした」





「(・・・また出番なしか)」





「それでは具体的な事例として、ある3つの戦いを見てみましょう…

1298年6月22日 ファルカークの戦い

1314年6月24日 バノックバーンの戦い

1332年8月11日 デュプリン・ムーアの戦い

いずれもイングランドとスコットランドの戦いです。先ず、リンク先で戦闘の流れを掴んでください」





「これまた手抜きもいいところね」





「簡単な図が載っていますし、文章での説明よりも雰囲気を理解しやすいだろうという私なりの配慮なのですが…」





「この3つの戦いを選んだ理由は?」





「中世の統合戦術を理解するのに、示唆に富む内容の戦いであったということです。最初は、年代順で一番古い『ファルカークの戦い』について、説明します…
 


スコットランド騎兵がイングランド騎兵に駆逐される

スコットランド歩兵が槍の壁防御隊形(スキルトローム)でイングランド騎兵に対抗

スコットランド歩兵へ長弓兵が射撃

スコットランド歩兵の陣形が乱れる

イングランド騎兵の急襲戦術によりスコットランド歩兵潰乱



このような流れになるのですが、ここで注目して欲しい点は2つあります。一つは槍の壁防御隊形をとったスコットランド歩兵をイングランド騎兵が撃破できなかったこと。もう一つは長弓兵の射撃の後にイングランド騎兵が突撃し、スコットランド歩兵を打ち破ったこと、です。ちなみに槍の壁防御隊形は読んで時の如くですが、ギリシアのファランクスのようなものを想像してもらえば良いと思います」





「そういえば最初の講義でシエルが言ってたわね。『急襲戦術に特化してしまった騎兵は、むしろ最も他兵科の支援を必要とした兵科』って」





「そのとおりです!このことをよく憶えておいてください。では、次の『バノックバーンの戦い』の説明に移ります…



スコットランド歩兵が槍の壁防御隊形で布陣

イングランド騎兵が正面から急襲戦術で攻撃し撃退される

長弓兵がスコットランド歩兵に射撃

スコットランド騎兵の急襲戦術により長弓兵潰乱

イングランド騎兵とスコットランド歩兵の混戦

エドワード2世の逃走を契機にイングランド全軍潰走



この戦いでの注目すべき点は、何の防御手段もない弓兵は騎兵の急襲戦術を防ぐことができないという点です」




「しかしこのエドワード2世という奴は相当のアホだな。槍の壁に考えなしで突撃すれば撃退されると分からないのか?それに貴重な長弓兵を無防備で敵騎兵の危険に晒している。さらに自軍の方が数的優位にあるにも関わらず、真っ先に逃亡し全軍を崩壊に導いた。こんな無能極まる指揮官の元では兵がかわいそうだ」





「反論の余地はありません。こんな人物がイングランドの王かと思うと、お恥ずかしい限りです」





「父のエドワード1世は優秀だったわよ。ファルカークの戦いでは見事な采配でスコットランド軍に勝利したしね。でも息子は酷いものね…確か第2回スコットランド出兵では長弓兵を極力減らせと主張して、同じ過ちをさらに大規模に再現していたわ





「・・・救いようがない」





「・・・気を取り直して最後の『デュプリン・ムーアの戦い』を説明します…

 

スコットランド歩兵が槍の壁防御隊形のまま前進

旧貴族軍(親イングランド)は下馬騎兵を中央、長弓兵を両翼に三日月型防御隊形で小高い丘に布陣

旧貴族軍の下馬騎兵がスコットランド歩兵の前進を食い止める

長弓兵がスコットランド歩兵に射撃

スコットランド歩兵が予備の歩兵を投入するが部隊が密集し混乱

長弓兵がスコットランド歩兵の両側面に射撃を集中

スコットランド歩兵が中央に密集し過ぎて圧死が発生

圧死と矢による死でスコットランド歩兵に被害が続出し潰走



この戦いは、後にフランス軍相手に何度も繰り返される戦闘の雛形になった戦いと言えます。下馬騎兵で敵主力を食い止め、側面からの長弓兵の射撃で敵を防御力の強固な部分へ誘因し、敵の攻撃を食い止めた下馬騎兵は、その敵を長弓兵の射程内に拘束し続ける…」




「なるほど。長弓兵が作り出す『キルゾーン』に拘束されてしまっては為す術もない。当初、両翼の長弓兵を無視して中央突破を図ったことが明らかな判断ミスと言えるな。スコットランド軍は旧貴族軍を寡兵と侮り油断したわけだ」





「それでは、この3つの戦いにおける戦訓をまとめたいと思います…


[戦訓1]  

弓兵と騎兵が協調して行動すれば、歩兵の緊密な(通常なら急襲戦術にも耐えうる)防御隊形を破ることが出来る

[戦訓2]  

弓兵は敵に打撃を与えるような射撃をする場合、一定の位置占めて行う必要があり騎兵の反撃に晒されやすい(弓兵単独では騎兵を防げない)

[戦訓3]  

下馬騎兵と弓兵を協調させ、防御に徹するとそれを打ち破ることは非常に困難である





「異なる兵科をいかに組み合わせるかってことが重要なわけだ。現代の諸兵科連合と同じ考え方か。このイングランドの生み出した戦闘システムは、個々の兵科の戦闘力の単純な総和よりも、遙かに大きいものが得られるということだな」





「う~ん…いかに上手く後出しジャンケンするかってことみたいなもんね」





「そうですね。戦争ですから卑怯でも何でも勝てばよいということです。このイングランドとスコットランドの戦いの戦訓が、百年戦争での対フランス戦で大いに役立つことになるのですが…それはまた次の講義ということにしましょうか。次回はちゃんとシエル先生も呼びますから期待していてください」





「(シエルが火病る期待ってことか…)」





「それじゃ、またね~」



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